鳥取県智頭町で「智頭町のすてきな暮らし体験」というモニター体験プログラムに参加してきました。
このモニターツアーは関西広域連合「文化の道」実行委員会が主催、企画・運営がstudio-Lのもと、ブンカに触れて、見て、感じる、丁寧なくらしをテーマに、実際に集落を訪ねてその場で様々な体験をするというもの。
民泊しながら、かまど炊きごはんを食べたり、人形浄瑠璃を体験したり、森を歩いて、タルマーリーを見学したり。
集合場所の智頭駅まで、東京から新幹線で姫路まで行って、姫路で智頭急行「スーパーいなば」に乗り換えて智頭駅で下車。自宅を朝5時に出て、着いたのが12時少し前。
限界集落に近い板井原集落の火間土でかまど炊きごはん体験。
智頭(ちず)、用瀬(もちが)、八東(はっとう)どれも読み方が難しい。
かまど炊きが出来る「火間土」。築年数100年は超えている古民家を改装したこちらの建物。この地域に住んでいる地域協力隊の方によると、周囲の建物もそれぐらいの年数を経ているものが多く、家賃は安いものの、住むための修繕に200万以上の改修費が必要になるとのこと。
水車で精米されたお米を人数分(なんと一升分)、汲んできた湧き水で炊き上げていく。
ごはんを炊く際に使用する薪は杉の木。ヒノキなどは燃え方が違うためほとんど使わない。
そして肝心な炊き加減は湯気の香りで判断する。
じっくり蒸らした後、蓋をとると蒸気とともに甘いごはんの香り。
炊飯器では味わえないおこげが嬉しい。待った甲斐あってほとんどの人がおかわりしていた。
この日のメニューは、手作りコンニャク、黒豆、コシアブラ和え、酢ズイキ、ちりめん山椒、里芋、下し大根、板井原コーコ、天ぷら、煮しめ、ナメコ汁。板井原コーコとはこの地域の特産の大根漬け。
中でも手作りコンニャクとコシアブラが美味しかった。
板井原集落の端にあった六地蔵。六地蔵は集落の境目に建てられることが多いそう。
清流の里 新田で人形浄瑠璃体験
この地に伝統芸能である人形浄瑠璃が伝わっている理由は、その昔それほど娯楽がなかった時代に博打にのめり込んでしまう者が多く、もっと健全な娯楽をということで始まったのがきっかけ。
まずは人形浄瑠璃がどういうものかを人形遣いの勘禄さんに教えていただく。
三人一組で一体の人形を動かしていく人形浄瑠璃。向かって左側、主遣い(おもづかい)が首(かしら)と右手、左遣いが左手、足遣いが脚を動かしていく。
そして、動きだけで人形の喜怒哀楽や性格(キャラクター)も表現するというもの。
これが実際に体験してみると、その難しさを改めて実感。主遣いの体重移動を察して右足を出したり左足を出したり、右手の動きで左手を出したり、常に気を張って集中していないとできない上に、見た目以上に体力が必要で、5分やると結構ヘトヘトになってしまった。本気でやるには相当な覚悟が必要だと思う。
教えていただいた勘禄さんは、震災を機に国立文楽座を辞めて人形浄瑠璃の普及活動に取り組まれている、熱意と想いが強い方で、話を伺っているだけでも学ぶところが多く、最終日にこのモニター体験の「振り返りワークショップ」の際、「誰かが悲しむことがない仕事をしましょう」、「何でも良いから、出来ることを少し無理をしよう。そこから見えてくることもある」と言っていたのが印象的だった。
森林セラピー体験
なめこは椎茸とは違って、木を寝かして土に着いた状態で桜の木で栽培するとか、杉林は手入れをしないと、「間隔が狭くなりストレスがたまり花粉が出やすくなる」など、歩きながら林業にまつわる話を聞くことができた。
自家製天然酵母のパン屋タルマーリー
午前中、森歩きを体験した後は、タルマーリーで昼食。以前、幼稚園だった建物を改装した、カフェを併設したショップ。最近岡山県の勝山からここ智頭町に移転して来た際に、建物はすべてDIYで一つ一つ自分たちで改装したため、気づいたら当初の予定とは違う雰囲気に仕上がってしまったとのこと。
こちらのピザ釜も手作り。あまり納得できてないので、今度の長期休みの際に作り変える予定だそう。
店内は多くのお客さんで賑わっていて、すでにほとんどのパンが売り切れ。
今後はパンだけでなく、もう少し広く農産加工品を事業として手掛けていきたいということから、製造販売に向けて取り組まれているビール工房なども見ることができた。
パンと同じく天然酵母のみでビールを作ることを目標としていて、生産過程で出るビール酵母を今度はパンやピザに循環させたいとのこと。
そして、さらにこの地域をより良くするために出来ることを取り組みたい。
例えば、無農薬で麦を作ってもらうことで、自然環境を自体がさらに良くなり、それをビールやパンなど食材として使うことで、経済面も含めて地域内で循環する仕組み作りを考えているそう。
話を聞く中で何か一つで完結するのではなく、様々な物事において、常に周囲との関係性を意識しながら循環する環境づくりに、取り組まれいるというのが伝わってきて、味はもちろんだけどこの考え方に共感できるから、買いに来る人も多い気がした。
以前の勝山と比較してパンの味は変わりましたか?と聞いたところ、「智頭は雑味のないピュアな印象の酵母が取れるなで、味もすっきりしていて困っている」。とのこと。環境が良ければ味が良くなるわけでもないというのも面白い。
特に移住や田舎に興味があるわけでもなく、いままで表参道の「かぐれ」にパンが並んでいたので名前だけは知っていて、何となく「美味しいパンの店」というイメージしかなかったのが、このツアーでタルマーリーのご主人・渡邉さんから話を伺い、共感できる部分や考えさせられることも多く、また勘禄さんをはじめ一緒に参加した人達との良い出会いがあったモニター体験プログラムだった。